はらはら落ちる桜の涙を月明かりが照らす
音のない夜の空気は死の目前の静謐に似て
このまま、呼吸も鼓動も止めてしまって良いような

そんな錯覚を覚えた
　
親愛なる　アイゼンへ

そちらはようやく雪が溶け出した頃でしょうか。
それとも、名残雪がまだ儚くも頑迷に春の温もりに抵抗しているのでしょうか。
こちらは春の日差しが温もりを経て暖かさとなり暑さに成長しようとし始めています。
まだ汗をかくほどではないけれど、羽織る上着は紗か絽かと言ったところでしょうか。

先日は報告と一緒に手紙をありがとう。
報告書にきっちりと書かれた文字、内容を見る度、あなたの仕事に対しての熱意を感じて嬉しくなります。
報告への返戻としての指示は纏めて添付するので、参照しておば様方と協議を。

本当は綴りたいのだけれど手短に、頂いた手紙への返事を。

手紙ではそちらの近況を伺う事ができ、筆不精なエイベル達の事が分かってありがたい限り。
読んでいる途中、あなたとエイベルの言い合いが聞こえたような気がして。
手紙の内容には不覚にも微笑んでしまったの。その後の仲直りの様子も浮かぶ気がして。
ただ、「喧嘩する程」とは言うものの、やっぱり二人が仲良くしているほうが嬉しいから、言い合いは程々に。
（もちろん、もう仲直りしたわよね？）

離れていても、刻まれている屋敷の時間が、この胸に確かに届いています。
最近不精をしていたので、読み終えて感じたあなたの優しさに対する自身の不義理が申し訳なく思えて。
あなたは構わないと言うかもしれないけれど、今後はもう少し密に近況を知らせられればと思います。

さて、手短にと書いたものの、あまり手短にならなかった気も……。
早ければ緑濃い時期のうちに一度戻ります。それではまた。

あなたの　ファルス・ランディールより