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トミーウォーカー運営PBW『エンドブレイカー!』、その登録キャラ『ファルス・ランディール』のキャラブログ
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「先生、ファルスはどこへ?」

私の問いにアイセルが首を傾げる。あなたを捜しに行ったわよと。
すれ違わなかったのと続けながらも、机の上を片付けるその手を止める事は無い。
こちらを視界に納めながら動くその姿は、その側面か後ろ頭にでももう一つ目があるかのようだ。

「ファルスはどう、きちんと学んでいる?」

重ねた質問に、返るのは楽しそうな苦笑い。
切れ長の眦が緩むのは彼女の機嫌が良い証拠。

「あなたより、よっぽど真面目だわ、ラフィ。」

皮肉入りのその言葉は、過去の私の授業態度を指してのことなのだろう。
親子二代、同じ相手を家庭教師に向かえ学んでいるとこんな事になるのだなと
ほんのり苦い感想を抱いて溜息を吐く。

「出歩いていて大丈夫なの、一昨日まで熱が高かったでしょうあなた。」

その私の仕草をどうとったのか、纏めた荷物は机の上に置いたまま、アイセルが身体ごと此方を向く。
数歩の距離を詰めて、額に触れた指先は己の体温よりほんの少しだけ冷たくて気持ち良い。
もう熱は無いはずだけれども、起きているより床に伏せている時間の方が長い身ゆえに
彼女の心配も過ぎたるものではない。もちろんそれが不本意だとしても。

「熱は下がっているから大丈夫、今日はまだ調子がいいの。」

それでも無理はしないようになさいと、アイセルは自分が羽織っていたショールを外し私の肩にかけさせる。
身を覆う温もりは彼女の体温だろうか、暖かいと感じるのは胸の内もで、口の端が緩む。

「ありがとう、アイセル……先生」

気持ちが緩んだついでに、呼び間違えて苦笑いとともに敬称を添える。

「今は構わないけれど、外では気をつけて。」

強く咎められはしないけれど、赤銅色の視線がほんの少し険しくなって抗議していた。
年は親子ほども離れていて、元とはいえ教師と生徒。
私が『主』で、彼女が『従者』となった今でも、先生と呼ぶのにはそれなりの理由もある。
だからこそアイセルは釘を刺すのだろう、忘れるなと。

一方ファルスは彼女を先生とは呼ばない。『おば』様と呼ぶ。
ファルスは幼いながらも、きちんと自覚と意図を持ってアイセルを『おば』様と呼んでいるようで
彼女もそれを承知していて、先生でなく『おば』様と呼ばれる事を許容しているようだった。
一度その正確な理由を二人に聞いたことがあるが、答えてはもらえなかった。
どうやら内緒にしておきたい事柄らしいので私も無理に聞き出そうとはせず現在に至っている。

家系的に見てアイセルは、私から見れば伯母で、ファルスから見れば大伯母。
要は私の父の兄嫁にあたる立場なので大きく間違った呼び方と言うわけでもない。
年齢的な話に触れるのを憚っての事であると見えなくもない。

「本当に熱は無いの?」

考え事に意識が飛んでぼんやりしていた私を、アイセルの声が呼び戻す。
訝しげに、けれど心配そうな気遣いの滲む表情に、平気よと答えて微笑む。
それより、と半ば強引に話題を変えて、黒樫の椅子に腰掛け、
張られた羅紗の内に詰められた綿の柔らか差を実感しながら、彼女の元に来た理由  本題を切り出した。
廊下の中程にある窓のひとつから空を眺めつつ、ファルスは一人考えていた。
母を探しにいくという口実の元、部屋を辞したけれど
自身の授業が終わるのを見計らうかのように、母がおば様を訪ねるのはいつもの事だと
彼女には充分に分かっていた。

邪魔しないようにと言われた事は無いけれど、
二人が揃っている時に間に入るのは憚られる雰囲気があるのも事実で。
ファルスは母たちの時間に立ち入る事はしないようにしていた。

「ほんとうに、仲がいいんだもの……。」

呆れとも羨望ともとれる吐息をひとつ零して、ファルスは寄り添っていた窓辺を離れた。
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