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トミーウォーカー運営PBW『エンドブレイカー!』、その登録キャラ『ファルス・ランディール』のキャラブログ
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夕焼けの光差し込む書斎にて、そっと椅子に腰掛けた。
今朝起きたときにはまだ積んであった、机の上を占拠していた紙片や羊皮紙たちはもう片付けられていた。
昼の日が空の一番天辺から落ち始める前に、やらねばならない事は全て終わらせてしまったからだ。
サイドテーブルに載せられたカップを持ち上げて両手で包む。薄い磁器の肌越しに熱が伝わって指先を暖めてくれた。雪深いこの地方では、日当たりの良いこの部屋でさえ火を焚かずには居れない寒さに満たされる。

「どう、美味しい?」

傍らから穏やかな声がかけられる。顔を向ければ視界に入るのはおば様の姿。
私と同じように椅子にかけ、その手にはやはり磁器のカップがある。
手ずから入れた紅茶の出来を疑っていない確認の問いかけ。
だから、こくりと首肯して美味しいですと簡素な感想を述べるにとどめた。

深い青緑色の瞳を細めて満足したように微笑む。その目尻に、口元に、皺がよった。
年相応よりは若く見えるおば様であっても、笑えば重ねた年を垣間見ることができる。
この家を離れる前―5年、いやもう少し長いだろうか―あの目尻の皺はそう深くなかった気がする。皺の深くなるような事が多かったのか、それとももうそういう年なのか判断はつかないけれど。時の流れは止まらない事を改めて実感する。

「ねえ、ファルス、帰る前にあちらの話をしてくれる?」

促す視線はあくまで穏やかで。
私はさて何から話したものかと思案して、当たり障りのないことから口にした。
 


背後注釈
人によっては続きの文章を不快に思われるかもしれませんので一言先に。
続きを読まれる方は少し気持ちを切り替えてどうぞ。有体に言って少々暗い話です。
(H23.1.17:落ちを追加。)


「ずいぶんとお友達が増えたのね」
 
話し始めてからどれぐらい時間が経ったのか。薄暗くなった室内に明かりを灯す。その我が背にかけられた穏やかな、けれど決して優しくない声音。振り向いた視線の先にあくまでも優美な笑顔。けれど瞳のその奥に垣間見えるのは、暗い怒りかそれとも嗜虐の喜びか。
確かに気を抜いていたと思う。おば様に迂闊にもあちらの人の事を話すなんて。そんなに嬉しそうにしていただろうかと自問自答して、おそらくはそうだったのだと歯噛みする。おば様は微かな表情の変化も見逃さない観察力がある。その事を忘れていたわけではない。けれど、誤ったのだ。

「ファルス」

蜜ほどにも甘い声の響きは、けれど怖気を誘うほどの冷たさを孕んで発せられる。びくりと肩がはねる。それを喜ぶ青緑色の瞳が、まるで底のない沼のように感じられる。逸らすという選択肢すらすぐには浮かんでこなかった。浮かんだところで実行することがどれほど困難か、呼吸すら憚られるほどの緊張感を強いられているというのに。手足の先がしんと冷えてゆく感覚に、血の気が引いているのがわかる。
不用意に己の幸せをひけらかしたが故に招いた事態。母ほどでないにしても、彼女の恐ろしさは十分心得ているはずだったのに。浅い呼吸を自覚しても、平静を保つ努力が片端から崩れてゆく現状では如何ともし難い。

くすりと微かにのどを鳴らす笑い。暗い光が遠のいて場の緊張が緩む。私の反応を十分に楽しんだとみえて、満足したらしかった。かくりと膝が折れた。座り込んだ臙脂の絨毯に手をついて、それ以上倒れぬように体を支える。彼女にとっては戯れの延長線上でしかない脅しも、受ける側からしてみれば孤立無援の戦場の只中に取り残されるも同意。この身にしみ込んだ恐怖という名の枷は、そう簡単に外されることのない首輪。彼女の声と微笑みと、その言葉が奏でる鎖を引く音に、私という存在が易々と膝を折る。彼女の署名と筆跡でさえ同じ。命じれば反抗の意思が与えられる機会すらない。今回の帰省がそうだった様に。

視界に入る靴のつま先。スッと差した影は、誰が屈んだせいかなど考えるまでもない。
触れる指先、その暖かさに震える。髪を撫で、梳き、持ち上げて、毛先に口付けられるその感触に、目を閉じる。できる限りその感覚から意識を逸らしておば様のしたいようにさせる。次に来るであろう『それ』に耐えられる様に願う。痛みならましなほうだ。けれどもしそうでなければ、どうなるか自分でも予想はできない。

果たして、ふり落ちたのは、穏やかなだけの声。また夕食でねと残して立ち上がり、離れてゆく足音。
開く戸の音にようやく上げた視線が、こちらを刺す青緑色のそれと絡みあい一瞬の間を置いて解ける。ガチャリと音を立て閉じた戸の向こうに艶然たるおば様の微笑を見た気がした。



「という夢を見たんだけれど、どう思う、ファルス」

夕食の席でのおじ様の唐突な発言に、同席していた私とおば様は小さく溜息を吐いた。どうなんだいと再度の問いかけを受けて、私は使っていたナイフとフォークを下ろし、口元を軽くナフキンで拭う。

「現実的に考えて、ありえませんね」

自身の唇が淀みなく動くのを感じながら、おじ様を窺う。すぱりと一息に放たれた言葉の中にある揺ぎ無い確信に、おじ様は楽しそうに笑っていた。まあそうだろうねと呟く。自分に向けられたおじ様のその淡い菫色の瞳が、君の口から更なる理由を聞きたいと告げていた。

「理由をお望みですか?」

答えを予想しながらもそう問いかけた。こくりと首肯したおじ様の意思に応える。一度瞳を伏せ、ほんの何呼吸かの沈黙の後、私は理由を述べた。

「私が、おば様の『ものにしたい相手』ではないからです」

端的で、けれどこれ以上の言葉はない。とたんはじけるフラビスの哄笑。しばし発作のように笑っていたおじ様がこちらを見て眦の涙を拭ったので、自分が不満げな表情をしていることに気づいた。よほど遺憾だと表情で告げていたのだろう。すまないと形ばかりにおじ様が謝る。それでもまだまだ笑いをこらえているおじ様の姿。小さな溜息を口の中にしまい、眼前のグラスに指を滑らせ口元に運ぶ。室温に同化したぬるい水で、わだかまりを飲み下し、微かな不満を内に飲み込んだ。

「大体、何処の三文小説なの、その筋書き。」

横様から投げかけられた冷ややかな妻の声に、おじ様がようやく笑うのを止める。濃い睫の奥からのぞく青緑色の瞳は彼が語った夢の中の彼女のように穏やかで、けれど笑ってはいなかった。

「私がファルスに手を出すとでも?、生徒にして親友だったラフィの娘であるファルスに?」

おば様が言葉を重ねるたびにその微笑が冷えてゆく。

「夢はその人間の思い考えを反映するというけれど、そんな風に思っていたなんて心外だわ、フラビス」

止めとばかりに告げた言葉は氷のように冷たく響く。然しものおじ様も困り顔で、けれど真剣な声ですまないと謝罪する。それは妻である彼女が、私の母を延いては私をどれほど大切にしているかを知っているから。そして自分の妻がひとたびその怒りを顕にすれば、彼が見た夢の中で、彼女が私に対して行った婉曲な行為よりもはるかに直接的な方法でその恐ろしさを思い知らされると承知しているからなのだろう。
言外の謝罪要求に屈したおじ様が不満そうに唇を尖らせる。おば様はそれを先ほどよりも柔らかな微笑みひとつでさらりと流し、食事を再開した。

おじ様の名誉のために釈明を添えて置くならば、彼の夢に出てきたというおば様は、妄想でも誇張でもなんでもなく、彼女の一面そのものである。
おば様はひとを屈服させるのがお好きだ。相手が怯えたり、屈辱を感じているときの表情を鑑賞するのが大好きでもある。そのために様々な策をめぐらせるという労を惜しまない性質をお持ちで、それは私も重々承知していることだ。とはいえ、彼女には十分な分別と自制心というものが備わっている。
それに、私やおば様が重ねて述べたように、彼女は私をそういった対象に選ぶ気はないはずだ。理由を明確に示すには、それを述べることに対しての、単純にして難解な葛藤の壁を乗り越える必要があるのでここでは割愛する。
今後もおばが私を対象に選ぶようなことがないように祈っている。切に、そうあって欲しいと思う。私は『誰か』と違って、虐げられることを喜べるようにはできていないのだから。

静かになった食卓にナイフとフォークの奏でる音だけが響く。言葉ない食堂内は少しだけ寒さが増したように感じられた。
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