思い出すだけで溜息が漏れるなんて




　
遠く、近くに、瞬く『ひかり』は人の在り処を教えてくれる
藍の闇にぼんやりと燈る橙の温もり、その一つ一つに寄り添う人の気配
自分だけでなく数多の人がこの空間に存在し、思い思いに今を楽しんでいる

ファルス自身も藍の闇の中、こうして物思いに耽っていた

腰掛けている葉は他のものより少し小ぶりだったが
スペースをとらないサイズのファルスにはちょうどよかった
その台座の上で、はらはらと落ちる薄紅の雪を見上げながら、深く息を吐く

ただ在るだけで人を惹きつけるその存在感
見ているだけなのに、先ほどから目が離せず
ため息がこぼれるのを抑えられないそんな状態で

――まさにその姿宛然たる女王の如しじゃ、一目で惚れてしまったのう……。

我ながら気に入ったものの事となると冗句のような戯言を吐くものだと思う
自分で口にした言葉なのに、今になって恥ずかしくなっている

水音と混じるざわめきを遠くに聞き流しながら素足を水にさらす
春から夏への移り際、まだ冷たい水温が思考を冷やしてゆく

見上げれば凜と立つ『女王』の姿、見下ろせば波紋に滲む艶姿
水面は、散り行くを惜しみ、別れるを惜しむ、自らの心を映すかのようで

――くしゅん

物思いに耽れば、たやすく時は駆け抜ける
ふるりと震える背筋、少し冷やしすぎたかと苦笑がもれた