明るいよりも、ある程度薄暗い方が安心する
とはいえ、真っ暗闇は遠慮したいわけで
そっとランプに火を灯すのが、日か落ちてからの習慣

月が明るければ、それですませてしまう事もあるけれど
今日は生憎、新月の夜
いつにもまして濃い闇の内に
己の居場所を確保する為
ゆらめく橙の火を灯す

磨りガラス越しの熱を受けて、明らかになる手元
そこには一通の手紙

真っ白な便箋に、セピア色の文字が佇む
崩されることのない生真面目な綴り方は、兄様の人柄そのものを写して
懐かしさか何なのか、ほっとため息がひとつ溢れた

時たまやりとりする文は、雑多な日々の出来事を徒然と綴っただけのもの
兄の近況はあいも変わらず、騎士として街中を見回る日々らしい
手癖の悪い近所の悪童相手に街中を走り回っただの
どこそこのお嬢さんから恋文をもらって返事に困っただの
町外れに住む薬師さまから胃痛の原因は心因性と言われただの

彩豊かな、穏やかな日々を想像して、口元が緩む
 
嘗てその一角に、優しいあの兄に守られて、己も存在していたのだろう
そこから抜け出し、背を向けて、旅立った末に今があるように
 
日向の匂いのする兄が懐かしいのは、自身がそこから一歩離れてしまったから
けれど、日と影の合間に立つ、今の自分を『自分らしい』とも思うから

そっと机上のペンを取る

生成りの色合いした便箋に、夜色のインクで
私の日々をお返ししよう

与えられた優しさに育まれた自身を、知ってもらえる様に